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村口きよ女性クリニック

女性の身体についてエッセイ集

思春期外来「揺れる体と心」(7)

(平成11年10月4日から毎週月曜 河北新報にて連載 全10回)

男女の間の大切な基本 自己の性を知る

 「おりものがあり、かゆい」と訴えて、高校1年生が受診しました。彼女は性交の経験はありません。診察の結果もこれといった異常所見は見つかりませんでした。ところが、「心配ないと思うけど・・・」と私が言ってもなかなか立ち去ろうとしないのです。「先生、部活で先輩の男子が『あれ(マスターベーション)やったことあるか?すごく気持ちいいんだぞ』と言うんですよ。『わたしは嫌だ』と言ったんですが・・・、実は中学のころは気持ちいいと思ったんです。いまはそう思えないし、感じないんです。」(しばらく無言)。私が「それで何が悩みなの?」と聞くと、「(感じないのは)病気かしらと思って」とのことでした。

 こうした思春期の若者に出会うと、私はなぜか心が浮き浮きしてきます。性についてありったけ教えてあげたくなります。性を当たり前のこととしてきちんと学び、言葉でも表現できるよう日々訓練してほしいと思うからです。私たち大人のように、性をタブー視しながら生きてほしくないのです。
 思春期の記念すべき出来事である、男子の「精通」と女子の「初経」は、男女の性における際立った違いを象徴しています。精通、すなわち初めて体験する射精は、性的興奮(勃起=ぼっき)に引き続き、性的快感の極地としてのオーガズム反応で終わります。男子の場合はスタートから快感に彩られているのです。
 一方、女子にとっては、かの有名なアンネ・フランクも「メンスのたびに面倒くさいし、不愉快だし、うっとうしいにもかかわらず、甘美な秘密を持っているような・・・」と言ったように、たとえ待ち遠しいことではあっても不快感の始まりには違いありません。

 身体的には、「快」あるいは「不快」、このいずれで出発しようとも、思春期には性の巧みな仕掛けが発動し、異性が気になり、異性に近づきたい、触れたい・・・、こうして確実に「性欲」は起こってきます。しかし、最近は過剰な性情報、性産業の繁栄、社会にはびこる大人側の不安定さなど、性をめぐる社会・文化的状況が「性欲」を一層肥大化させています。
 初めて性交した動機を見ると、「愛しているから」が男子は約5割、女子は約7割にすぎません。一方で「遊びや好奇心から」などと答える人がかなりいます。人間として男女が関わり合っていくことの意味をもっと大切に考えてほしいと思います。
 マスターベーションは、性的存在である自分自身を知る上で、思春期の重要なテーマです。男子の多くにとってはほとんど毎日の体験なのでしょう。女子の体験率は男子よりも圧倒的に低く、個人差も大きいのですが、性体験とともに増えてきます。
 男女のコミュニケーションの基本条件はまず、自己の性を知ることから出発するのでしょう。

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